サークルインタビュー FrontView

梅原うめAPRICO*

さんかくに似ている3
B5/34P/500円
職業…マンガ家
趣味…ドラマ鑑賞
コミティア歴…コミティア102から
https://bsky.app/profile/umekkmk.bsky.social
「百合」ジャンルで女性2人の恋愛や友情を超えた絆を描くマンガ家・梅原うめさん。キャラクターの生き生きとした心理描写と、恋愛に留まらない「関係性」を重視した作風が特徴だ。商業・二次創作の活動を行うかたわら、近年のコミティアでは毎回新作を発表。その多作ぶりは際立っている。
原点はマンガに囲まれた幼少期。「家族全員がマンガ好きでした。少年、少女向けの作品から青年マンガまで様々なジャンルの名作に触れて、『マンガってすごい!』と感じたのを覚えています」。また子供の頃、友人のお姉さんとやり取りしていた「イラスト交換」も強い印象を残した。「好きなキャラクターを手紙でお願いすると、返事でそのイラストを描いてくれるんです。人を喜ばせられる、絵の魅力を感じました」。周囲の環境に恵まれ、漠然とマンガ家の夢を抱いていったと言う。「キャラクター同士が関わることで生まれる『絆』が好きだったので、そういったマンガを自分も描きたい、と思っていました」
だが、しばらくは上手く一本の作品を描き上げることができなかった。そんな折、転機が訪れる。「友人の勧めで百合をテーマにした投稿企画に参加したんです。自分の描きたいように描けた感覚があって、作品の可能性が一気に広がりました」。その後は百合を自らの軸とし、12年に友人とサークル参加したコミティアで本格的に同人活動をスタート。数年後には商業誌への作品投稿を始め、16年には「コミック百合姫」(一迅社)で『ロク+イチ暮らし』を連載、実績を積み重ねていった。二次創作でも『アイドルマスターシンデレラガールズ』の「だりなつ(多田李衣菜と木村夏樹)」で10年以上活動を行っている。「今までに50冊以上同人誌を出しました。お陰で作画のスピードが上がりましたね」
コミティアに継続して参加するようになったのはコロナ禍中の22年から。夜のビアンバーを舞台にした『陽のみちる恋』上下巻を刊行し、Push&Reviewで紹介されるなど好評を博した。「自分のマンガを読んでくれる人に直接会えるし、自由に作品を発表できる場としても大切ですね」という言葉通り、多彩な舞台設定で新刊を出し続けている。特に『はるこのなか』(23年)と、高校生の初々しいカップルを描いた『おくびょうウサギはお互い様』(24年)は好一対をなす自信作だという。「前者では大人同士の複雑な感情を繊細に、後者ではまだ十分に世界を知らない無敵感を自由気ままに描けたと思います」。151で完結となる3巻を発行した『さんかくに似ている』は、互いに想いを向け合う三人の関係がテーマ。愛情と友情の境界を探る意欲作となった。
「『特別な関係』は、必ずしも恋愛でなくて良いと思っています」と語る梅原さん。「王道の百合で無くても、好きと言ってくださる読者の方がいることにとても感謝しています。画力や表現力を磨き、作品の幅をより広げていきたいです」。百合を追求して生まれる新たな世界から、今後も目が離せない。

TEXT / HEKIRU KURAKAKE ティアズマガジン152に収録

せんおこめのかし

ユラギメタリカ
A5/42P/500円
職業…個人事業主
趣味…料理
コミティア歴…コミティア107から
https://bsky.app/profile/uitemasen.bsky.social
罪と業に塗れた皇子を巡る復讐譚『東の空に沈む』や、土着の神に大切なものを奪われた3人の旅路を描く『閉じた国のホロン』など、壮大なファンタジー長編を多数手がけてきたせんさん。人々の出会いを重層的に描き、結末を濃厚に描き出す巧みなストーリーテラーだ。キャラクターが苦悩し、過酷な運命に抗う姿を通じ、人間らしく生きる難しさと尊さを読者にも鋭く問いかける。
初めは小説で同人活動を行っていた。自身の小説サイトで知り合った仲間に誘われ、自分で挿絵も描いた作品でコミティアに参加していたという。だがある回で、友達が描くファンタジー大作マンガを読み衝撃を受ける。「それまで同人誌は『薄い』っていうイメージがあったんです。重厚なマンガを描いても大丈夫なんだ!って、目からウロコでしたね」。描き始めた所、挿絵で磨いてきた画力も助けとなりマンガの楽しさに開眼。「小説では表現や言い回しで苦労していたのが、絵だったら自由自在に描ける。『表情って楽しい』みたいな、新鮮な面白さがありました」
仕事で多忙な中「マンガを描いている時だけ生命を感じていた」と言うほど自身を追い込み、コミティア122で発表したのが、最初のマンガ本『獣の王と逃亡兵』だった。読者からの反響は大きく、Push&Reviewにも取り上げられる。「マンガを描くことで、自分を認めてくれる人がいるのが嬉しかったです」。翌年には360ページに及ぶ『魔法の国の豆スープ』を全4巻、4回連続で刊行。完結まで駆け抜けたことは大きな自信につながった。
コミティア130からは「キャラの造形に欲望と自分の『癖』を存分に出した」シリーズと語る『東の空に沈む』を開始。だが途中で登場人物の選択に悩み「ド難産」と言うほど難航した。「何となくのラストは考えていても、展開は固めないので時間がかかりました。でもある時、キャラの行動が物語と噛み合った瞬間があって。最高の快感でした」。そこからは最後まで一気に描き切った。
「人間の『選択』が持つ美しさを描いていきたい」と話すせんさんにとって、創作ファンタジーという分野は相性が良いと言う。「世界のルールや人の持つ役割を全部自分で作れるので、現実の歴史的背景や地域特有の事情といった先入観抜きで読んでもらえるのが魅力的ですね」。その言葉通り、最新シリーズ『閉じた国のホロン』では迫害や差別といった事象そのものの本質にも踏み込めた。「身近にある困難について考えてもらうことができれば嬉しいです」
直近ではSF短編『ユラギメタリカ』など、新しいジャンルにも挑んでいる。今後どんな作品を作りたいか、との問いに「『自分も読者も考える作品』です。選択の重みがある分、苦しみ悩んで欲しい」と抱負を語ってくれた。「思わぬ出会いと苦しんだ決断がプラスに働く物語は、現実の辛さに立ち向かう糧にもなるはず。それはフィクションが持つパワーだと思います」。作中の人物が切り拓く一筋の希望は、きっと読む者の支えになるはずだ。

TEXT / RYO SHIOTA ティアズマガジン152に収録

中村雅奈中村一般

奄美旅「アダンの海辺」
〜1、2日目〜
A5/116P/1200円
職業…イラストレーター・画家
趣味…読書と散歩
コミティア歴…2016年から
https://nakamuraippan.com/
ありふれた街角や植物、どことも言えないような場所。中村雅奈さんは自身の眼差しを通して、そこに息づく痕跡と、かけがえのない時間があることを教えてくれる。
95年東京生まれ。祖父母が営んでいた三軒茶屋の居酒屋が原風景。幼少期より絵画造形教室に通い、細密な絵が好きだった。美大付属の中学高校に進学した10代は、心身の葛藤に苦しみ現実逃避のように絵をたくさん描いたという。「普通の企業に就けるとは思えなくて」美大在学中からプロのイラストレーターとしての活動を開始する。手探りで作品を売り込み、雑誌の挿絵、書籍の装画、ルポマンガ等の仕事に結びつけていった。
商業イラストと並行して、自己表現の場として展覧会活動や、自主制作にも精力的に取り組んだ。コミティアには16年から参加。最初に出したイラスト集は一冊も売れず泣いて帰った。初めてちゃんと描いたマンガは、知らない人が手に取ってくれて「むちゃくちゃ嬉しかった」と振り返る。好きだった渋谷センター街の古い八百屋をテーマにしたコピー本だった。「昔から一貫して『忘れたくないな、うつくしいな』と感じた瞬間を描き残し続けています」
21年5月には、19〜20年の間に描いていた日記マンガをまとめた自費出版本『僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ』を発行し、大きな反響を呼び完売。増刷未定だったところ、22年に個展開催で縁があったシカク出版より商業版が刊行された。翌年の夏よりストーリーマンガ初連載『えをかくふたり』(小学館)を開始したが、24年2月の単行本1巻発売をもって自ら終了させた。「伝えたい内容は全部積み込みました。しばらくマンガは商業を離れて描くつもりです」
24年5月のコミティア148で発行された同人誌『奄美旅「アダンの海辺」』は、4コマ形式で綴られたエッセイ。「描くのも読むのもあまり疲れない本を作りたかったんです」。大学卒業以来、休みなく働き続けて来て初めての長期休暇をとった23年春の旅の記録だ。「植物を描くのが好きだと気付いて」豊かな自然と念願だった田中一村美術館がある奄美大島へ。「創作活動の転換点としてとても大切な旅になりました。島の植物に影響されて出来た作品がたくさんあります」
最近は「花と犬」を水彩画で描き続けている。「犬は自分の分身だったり、守護霊みたいな大事な存在。きれいな花に守られ、あたたかく安らかな場所にいてほしいと願いながら描いています」。モデルは実家で一緒に暮らしていたダックスフンドだ。誰もが懐かしさや儚さを感じたり、夕日に感動するような、人間の本能ともいえる「共通感覚をどのように描くか、どんなモチーフにするかが表現なのではないか」と語る。「個人を究極に突き詰めていくと全体になると思うんです」
常に絵と共に歩み、絵によって世界と繋がり、描く意味とその先を思案し続ける。静かに切々と語りかけてくる中村さんの作品に耳を澄まし、柔らかな心で受けとめて欲しい。

TEXT / AI AKITA ティアズマガジン152に収録