サークルインタビュー FrontView

志野田麦旧夏川研究所

白粉花の告白II
A5/40P/500円
職業…漫画家
趣味…音楽鑑賞
コミティア歴…コミティア126から
https://x.com/ssikmgy
夢の中を彷徨うかのような幻想的な世界観、メイドや女装など属性盛り盛りのキャラクター。それでいてどこか生暖かく、リアルな空気を覚える無二の読後感…。「実際に経験したり考えたことを、好きな趣味や描きたい題材と掛け合わせてお話を作ることが多いです」。志野田麦さんは、現実と非現実の隙間で濃密なストーリーを紡いでいく。
子供の頃から様々なジャンルの漫画を読んできた。そんな中でも特にハマったのがPEACH-PITさんの『ローゼンメイデン』。「今もキャラにフリルのついた服を着せがちです」と強い影響を受けた。また物心付いた時から、自然と「将来は漫画家になる」夢を抱いていたという。「小学生の時は友達と漫画の小冊子を作っていました。中高でも授業中隠れてずっと絵を描いていましたね」
18年11月にはコミティア126にサークル参加。「自分の絵が人に見せられるレベルには達したかなと思い、イラスト集と学生時代に描いてた漫画の改稿版を描いて参加しました」。本は初参加にして見事完売。以後、毎回新刊2冊を出すハイペースで1年間コミティアに参加した。
だがそんな折、コロナ禍が襲来。「スイッチが切れちゃった」かのように創作のモチベーションが低下してしまう。「この時期も作品の構想を書き溜めてはいたんですけど、形にできませんでした」。そんな中でも、好きなゲームの二次創作イラストをWEBに投稿したり、美術展に展示参加したりと、数年を経て徐々にやる気を回復していった。
そして23年には「高校のころから登場人物や世界観の原型があった、思い入れのある作品」と言う、時空が歪む熱帯の島を舞台にしたファンタジー『棕櫚と竜舌蘭と重力渦』全8話をピクシブに掲載。コロナ禍以前に2話の途中までは描いていたが「いよいよ完結させるべき時が来た」と決意し、初めて100P超の漫画を描き切った。すると読者からの反応は上々。総集編として同人誌版を12月のコミティア146で発行した。「箔押ししたカバーを作って、手作業で巻きました。印刷費も相当なもの。これで手応えがなかったら終わりだな」という覚悟でこだわり抜いた1冊はPush&Review票数1位を獲得するなど、大きな自信になった。
その後も思春期の子供たちの少し背徳的な人間模様を描いた『白粉花の告白』や、現実と幻の区別が曖昧になる館に迷い込んだ女性の一日を描く『ランダルギィ・ポー幻想館』といった作品を次々発表。「常連の読者さんが増えていって、交流することが新刊を出す原動力になります」。さらに商業でも複数の雑誌で読切を掲載。「今は、自分の中に眠る物語を一つでも多く形にしたい」と、コロナ禍のブランクを埋めるように活動している。
「過去のアイディアやメモを読み返すと、今の自分では思い付かない発想があって感心します」と語る志野田さん。日々感じたことを醸成し、作品へと昇華していく。そんな創造の世界を、これからも見せてもらいたい。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン153に収録

スギモトマユKilinninzis

17万円かけて整理収納
アドバイザーに部屋を
整えてもらった話
A5/70P/1000円
職業…イラストレーター
趣味…映画鑑賞・ラジオ
コミティア歴…コミティア136から
https://mayusugimoto.wixsite.com/official
経験から得られた知見と、率直で真に迫る感情。スギモトマユさんのエッセイマンガは楽しさも苦労も全部入りで読者の心を惹く。「知っておきたかったコツと困惑した体験を本にして頭を整理している。自分のために描くという目的は忘れたくないです」
物心つく頃には自然と絵を描いており、小二の時には自分で話を考えた4コマも作るようになる。しかし中学時代は不登校になってしまい、高校でもそれを引きずって苦労の日々を送った。かろうじて進学した大学でも「人生終わりという気持ちで毎日を過ごしてました」。それでも留学生との交流を通じて習得した英語を武器に、卒業後は就職した。
転機が訪れたのは、転職に向けた自己研鑽としてロンドンへ語学留学した時。「あまりに楽しかったので永久にいたくなりました。生きてきてよかったって思えて、本当の自分の力を発揮できるようになったんです」。そしてイギリスで過ごす中で自画像キャラの『ぴぴまる』を着想し、現地生活のエッセイを描き始める。「モデルにしたフェネックギツネの中性的なイメージが自己像と重なったことで、上手く描けるようになりました」
しかし20年3月、パンデミックにより無念の一時帰国を余儀なくされる。そんな中、以前から知っていたコミティアがコロナ禍でも継続して開催されていることを聞いた。
「この帰国体験をマンガにして出すならやっぱりコミティア」と、初のエッセイ本『コロナ帰国』を制作して136(21年6月)に参加。Push&Reviewでも紹介されるなど好評を博した。高まる意欲のまま新潟コミティアにも遠征したところ「コミックワークショップでBELNEさんから『お金を出して読む価値がある』と講評いただいたことが自信になりました」。その言葉どおり、ブログ連載は『ロンドンアドベンチャー通信』(KADOKAWA)として23年に書籍化された。
「自分にとってマンガを描くことは治療でもあるんです。中高生時代の欠落から湧いてくる抱えきれないぐじぐじした気持ちを創作のエネルギーに変えてお別れする」のが原動力。ロンドン滞在記のほかにも、即売会ブースでのディスプレイのコツや、モノが多い引越で悪戦苦闘した体験談など幅広く発表する。並行して「今は人生の途中だから何でも楽しみたい」と、多色刷りや紙質を凝らしたイラストやグッズも手掛ける。出展イベントもコミティア以外にデザインフェスタ、ZINEイベントなど様々だ。
それでも最後はマンガにこだわる。「中高の時にノート70冊分メモしていた話が本当に描きたいものなんです。でもいざ取り組もうとすると桁違いに難しくて。描ける時をゆっくり待ってます」と大きな目標を見据える。
「自分が読みたい本を作る。同人ってそういうもの」と語る前向きな開き直りの裏には今までの苦労の積み重ねがある。だからこそエピソードのひとつひとつが心に響くのだろう。あなたもぜひ、スギモトさんの作品を読んで悲喜こもごもな体験に没入してほしい。

TEXT / TAKASHI MENJO ティアズマガジン153に収録

うし小丘陵地

サークル小丘陵地作品集
太陽の犬
B6/116P/600円
職業…会社員
趣味…映画鑑賞、散歩
コミティア歴…コミティア116よりサークル参加
https://x.com/lg_o7j
うしさんは日常のなかにある、些細なできごとや人々の心の動きを、俯瞰的かつ、つぶさに描写する短編漫画を描く。「いろいろと考えているうちに、いつも時間がなくなってしまって…」とコピー誌を会場で製本・頒布するスタイルが定着(?)しているが、最近オフセットの総集編を発行し、読者層もぐっと広がりを見せ始めている。言わばコミティアで今読むべき旬の作家のひとりだ。
生まれも育ちも関東で、本格的に絵を描こうとしたのは中学三年生のころ。「普通なら漫画の模写とかから始めると思うんですけど、生来の逆張り的な精神がどうにもあって、まず自分の理想の絵柄を創ろうとしていました」と話す。そのうちに美術系の仕事をしたいという思いが生まれ、美術予備校を経由して美術系の大学へ。現在は目標どおり映像系の会社に勤めつつ、同人活動を精力的にこなしている。
コミティア参加のきっかけは大学時代の友人の影響で「何となく見に行ってみよう」くらいの気持ちだった。その後、参加されていた戸川賢二さんの作品に感化され、今日まで創作活動を続けているそう。好きな映画は『ノーカントリー』『インヒアレント・ヴァイス』『スリー・ビルボード』など、大衆的なエンタメというより、観た人に物事を考えるきっかけを与えてくれる作品が多い。映画字幕特有の、ある種の回りくどい言い回しも好む理由の一つだ。「戸川さんの漫画で一番好きな『小林とBEATLES』や、好きな映画に共通して感じるのは、作中にうっすら諦観めいたものが流れてるところです」
作品の制作過程で心がけているのは「描きたいシチュエーションへのアプローチの過程で拾いきれない情報が生まれてくるので、プロットは作らないし、作れない」、「登場人物の思考を尊重して、都合よく操らない」こと。作品を読んでいて感じる見せゴマのさりげなさや、あざとすぎないオチはこれらのこだわりに裏打ちされたものだろう。
創作の原動力は、現在までに体験してきたことのすべて。いろいろな場所を散歩したり、知らない土地に行くことが好きで「何よりもそれに至るプロセスを重視したい」「作品の世界観に繋がっているので、背景はなるべくしっかりと描くことを意識しています」と語る。背景に注目すると、どこかおぼろげな印象もある作品群の深層部分が、垣間見える。
編集者から声がかかることもあるが、売り上げを気にして漫画を描くことは現在の志向のかぎりではない。まず何より大切にしているのは「自分自身も含んだ近しい場所にいる人達に漫画を読んで楽しんでもらうこと」。最初にひとりで始めた創作活動は続けるうちに知人も増え、コミティア153では初の合同誌を発表する。
今後についても「会社員をできるだけ続けつつ、その中で描けるものを探していきたい」と、あくまでマイペース。そんな彼が生み出す、どこにでもありそうで、どこにもない日常の物語を感じてみてほしい。

TEXT / TAKUYA SAKAMOTO ティアズマガジン153に収録