インタビューシリーズ Neo Comic Scene 第5回
24年8月、株式会社サンリオから「公式とファンがつながる創作プラットフォーム」を謳う新サービス『Charaforio』(キャラフォリオ)がリリースされた。同サービスは権利者が自作のキャラクターのガイドラインを明示し、クリエイターはそれに沿って安心してファン創作を行えるのが特徴で、さらにクリエイターへの制作依頼やコラボ企画も可能な点が特徴。 しかし、ハローキティに代表される自社IPで知られるサンリオが、なぜ外部のクリエイターを支援するプラットフォームを立ち上げたのか。サービス開始から1年、この意欲的なプロジェクトはどこへ向かうのか。プロデューサーの湯木貴子氏と開発担当の大塚智貴氏に、その真意と未来像を訊いた。
(取材・文:吉田雄平)
デジタル事業本部
湯木貴子
大塚智貴
「みんななかよく」の理念とデジタルへの挑戦
——湯木さんがサンリオに入社された経緯を教えてください。
湯木:通っていた大学のキャンパスの近くにあったサンリオピューロランドに、初めて行ったことがきっかけになりました。ちょうど就職活動を始めた時期でもあったので、サンリオ本社について調べてみたら「みんななかよく」という他にない企業理念があるのを知ってさらに惹かれました。
——入社後、今のデジタル事業本部に異動された経緯は?
湯木:私は22年に入社して、最初の1年目は人事部にいたのですが、その冬に新しく立ち上がった「デジタル事業開発部」のメンバー公募がありました。コロナ禍でサンリオピューロランドが初めての長期休館を余儀なくされたことなどもあり、「Sanrio Virtual Festival」を皮切りに「いまこそデジタルを強化しなければ」という機運が高まっていました。
——「Charaforio」の計画は、その時点で既にあったのでしょうか?
湯木:名前は決まっていませんでしたが「いろいろな作品が集まり、コラボレーションで広がっていくサービス」という企画がありました。そこに私が専任のプロデューサーとして立候補しました。
——ではサービスは具体的なところは湯木さんが主導されていったということですね。
湯木:はい。最初は「クリエイターへしっかり金銭として還元する仕組みづくり」がサービスのイメージでした。ただ、そもそも収益に繋げるためにはクリエイターの作品そのものを盛り上げることが必要です。作品の盛り上げはファンアートに鍵があると考え、ファンアートの投稿に特化することになっていきました。
大塚:私はプロジェクトの途中から参加したのですが、その時点ではやりたい機能ばかり盛りだくさんで、いつまでも作り続けるような雰囲気もありました。そこで、まずリリース日を決めてそこに向かって走っていくよう軌道修正しました。マンガやイラストと同じように締め切りという意識を持つのは開発でも大事なのです。
クリエイターを支援する理由
——大塚さんはこれまでIT系やスタートアップ系の企業で活躍されてきたそうですが、傾向とは真逆のサンリオに入社された経緯を教えてください。
大塚:これまで働いていた中で感じていたのは、プラットフォーム開発において、機能だけで差をつける時代は終わり、IPやコミュニティが持つ独自の空気感が差別化の鍵になっているということです。そんな時に、世界的にも強力なIPを持つサンリオが、「新しいサービスを立ち上げる」と聞いて興味を持ちました。
——大塚さんはこれまでpixivFANBOXを始めとしたクリエイター向けのサービスを開発されてますよね。何か拘りがあるんでしょうか?
大塚:実は私もクリエイターを目指していた時期があったんです。でも収入面の不安から諦めた経緯があって、だからこそ、そうした不安を抱える若いクリエイターを一人でも減らしたいという思いを強く持っています。実際にサービスの詳細を聞いてみたら、社外のクリエイターと積極的にコラボレーションしたいという話もあって「自分が次にやるべきことはこれだ!」と確信したんです。
——サンリオとしても前例がないことが多かったと思います。社内の調整も大変だったんじゃないですか?
湯木:グローバル展開やサンリオキャラクターを用いたクリエイター支援はこのサービスをリリースする上で必須条件だと考えていましたが、自社運営のグローバルデジタルサービスの展開や、公募でのサンリオキャラクターとのコラボレーションの実施はサンリオとしては前例のない新しい試みです。 実現のために社内でいろいろな方に話をしに回りましたが、最初は疑問符だらけの反応がほとんどで、説明に苦労しましたね。「サンリオは元々クリエイターを応援してきた会社で、コラボレーションの思想が根底にある」ということを言語化し、プロジェクトの意義を理解してもらうことで、協力者を増やしていきました。
大塚:私たちの使命は新しい人気キャラクターを生み出したり、今いるキャラクターの魅力をさらに引き出すことです。今サンリオのキャラクターは人気ですが、その人気はずっと右肩あがりというわけにはいかず、下がることもあります。時代のトレンドや若者の共感性に刺さるようなコンテンツを発信し続けていくには、クリエイターと手を取り合うことが重要だということを強くアピールしました。
サービス開始1年で見えた景色
——サービスが開始されて1年、現状の手応えや課題を教えてください。
湯木:登録IP数は約1100件です。1年間で1000件を超えたことは、サービスとして非常にありがたいことだと感じています。今後はそのIPをサンリオとして、いかに外部に発信していくかに注力していきたいですね。
——投稿作品のレベルが高い印象がありますが、サンリオが運営しているということで、投稿のハードルを高く感じるユーザーもいるのかなと思います。
大塚:クリエイターの成長過程も含めて、ファンが応援できるような場を目指していますので、投稿のハードルはできるだけ下げていきたいと思っています。例えば、過去に開催したイラストコンテストで、ファンアートの累計いいね数が多かったキャラクターが優勝という仕組みにしたところ「応援のために初めてペンを握った」という方がいて、すごく手応えを感じましたね。
湯木:キャラクター宛の「ファンレター」を書く代わりに「ファンアート」を描くような場所にしたいという想いもありましたので、そのコンセプトをしっかり体現できたのは、とても良かったですね。
——今後どのような展望がありますか?
大塚:今後は、見る側、つまり「応援する側」がもっと楽しめるような仕掛けを考えていきたいです。例えば、自分の推しキャラクターを使って遊んだり、応援したりする文脈で楽しめるようなアイデアを考えています。
湯木:ファンの方々が楽しめる要素を増やして、それをきっかけにまた新しいクリエイターが参加してくれる、そんな良いサイクルを作っていきたいですね。
Charaforioが目指す未来
——「Charaforio」では「作品」や「キャラクター」のことを知的財産権を表す「IP」と呼んでいますよね。その理由を教えていただけますか?
湯木:IPという言葉は、まだ多くの人には馴染みがないかもしれません。サンリオがプラットフォームを運営する上で、知的財産の包括的な権利と価値、マナーについてユーザーのみなさんの理解をより広めていくことも大切だと考えました。
大塚:リリースするまで不安だったのですが、皆さんの反応を見ていると想像以上にしっかり受け止めていただいていることが分かって、本当に良かったなと思っています。
——「Charaforio」で目指していることについて教えてください。
大塚:「Charaforio」で、ファンが安心してクリーンな立場で作品を創作できる文化を根付かせることで、IPの寿命が延びていく土壌を作りたいと思っています。公式の動きがなくてもファン創作で盛り上げることもできますからね。例えば「Charaforio」に今日投稿されたファンアートを、10年後にハマってくれる方に届けられたら素敵ですよね。
湯木:SNSに投稿されたファンアートは、流れていってしまう感覚があります。しかし「Charaforio」では、キャラクターへの「愛」が積み重なっていく。そんな、ファンが嬉しい場所として育てていきたいです。
——コミティアにご出展してみての印象はどうでしたか。
湯木:クリエイティブへの関心やアンテナが非常に高く、私たちの話を熱心に聞いてくださる方が多いのが印象的でした。自分たちの好きなものをどう楽しむかを常に探している方々が集まる場なんだなと思いましたし、「Charaforio」のコンセプトとも相性が非常に良いと実感しました。
——コミティアに参加されているクリエイターの方に伝えたいメッセージはありますか?
湯木:まず一番お伝えしたいのは、サンリオは今、クリエイターを応援しながら、一緒にビジネスにも取り組みたいと本気で考えているということです。サンリオの持つアセットやノウハウを活用して、新しいエンターテイメントを一緒に作りたいと思っています。
——個人で活動するクリエイターとサンリオが協業していくイメージでしょうか?
大塚:そうですね。私たちが目指すのは、YouTuberやVTuberにとっての事務所のような存在です。サンリオは皆さんのキャラクターを、より魅力的にするためのサポートをすることができますし、個人では対応が難しいことが多い権利関係のサポートは、サンリオの得意分野です。お互いに「Win-Win」な関係を築けられると思っていますし、社内では重要なプロジェクトとして、確度高く検討を進めています。
——お話からサンリオの本気度が伝わってきました。自分のキャラクターがサンリオのキャラクターとコラボするチャンスなんかもありそうですね。
湯木:はい。サンリオの持つ流通などの既存ビジネスを最大限に活用して、皆さんのキャラクターをより多くの人に届けていきます。ぜひ多くの方に利用していただきたいです!
(ティアズマガジン154に収録)
