東京2020オリンピック・パラリンピックが終わり、誰にとっても忘れられない夏となった、2021年の8月が過ぎました。例年8月開催の夏のコミティアも、同イベントの都合で会場が利用できないため9月20日の開催となります。思えばここ2年間、オリ・パラとコロナ禍の二重苦に振り回される毎日でした。
コミティアも参加する、東京ビッグサイトを利用する同人誌即売会主催団体のプロジェクト「DOUJIN JAPAN 2020」 は、オリ・パラの開催がきっかけで生まれたものでしたが、昨年からのコロナ禍に於いても情報共有や政治的な働きかけの役に立ちました。この8月19日には、国会議員、都議会議員、国、東京都、業界関係者、有識者の皆さんに参加いただき、「東京ビッグサイトにおける同人誌即売会の開催に向けた関係者ラウンドテーブル」を開催。コロナ禍での即売会を円滑に開催するための議論を行いました。こうした活動は今後につなげて行きたいと思います。
我々イベント主催者の役割は数ヶ月先を見越して、計画を立て、準備をすること。東京ビッグサイトの場合は1年以上前に会場予約し、参加サークルを募集し、一般参加者に向けて告知し、入場証替わり(入場者数管理も含む)となるカタログを作って部数を決め、そして開催日を迎える。そのサイクルの繰り返しをずっと続けてきました。
ところがこのコロナ禍で、先々の計画を立てるのがとても困難になりました。緊急事態宣言やそれに準ずる措置の発出や延長が繰り返され、国や自治体、会場のガイドラインも頻繁に改定されます。開催日時点の世の中の状況がどうなるかは誰にも判りません。昨年この問題が始まった頃はこれからどうなるのか?という不安でしたが、今年はこの状態がいつまで続くのか?という苦悩に変わりました。
いまは新型コロナウイルスのワクチンの普及に望みをかけるしかなく、今年の10~11月頃には、希望する人への2回の接種は完了する見込みと言われています。それにより現在のイベントの収容率・上限人数の制限の見直しも期待したいですし、並行してワクチンパスポートやそれに類する証明書の導入の議論も始まっています。
コミティアとしても、今後に向けて参加者の皆さんにはなるべく早期のワクチン接種をお願い出来たらと思います。多くの皆さんに安心して参加してもらうために、接種が可能な方はどうぞご協力をお願いします(勿論これは必須ではなく、接種しないことで不利益が出ないようにしたいと思います)。
なお、今回もスタッフ不足を心配して、このカタログを印刷している緑陽社の社員の方々が応援に来てくれました。この場を借りて御礼申し上げます。苦しい運営体制が続きますが、何とかこの場所を守ってゆきたいと思います。
そしてもう一つ、けして忘れない夏にさせたのは、私を含む多くのファンを悲しませたマンガ家・マンガ研究者のみなもと太郎先生の訃報でした(享年74歳)。
自分が10代の頃より愛読した作家であり、一方でマンガ読みとしての慧眼と知識も一流の、先生のウイットに富んだ文章を通して、私は新たなマンガの楽しみ方を教わりました。そこから私はマンガ情報誌の編集者になり、創作マンガ同人誌即売会の主催者になって、現在に至ります。
みなもと先生にはその後、BELNEさんとのご縁(ティアズマガジン137/P60参照)から、コミティア48(99年5月4日)の後夜合宿にご参加いただき、ティアズマガジンの公開インタビューを行いました。その際の先生の発言の中で「(「風雲児たち」の)有難い読者を私は持っていると思います。百万人と引き換えに出来ない一万人の同志」という言葉は、表現者と読者の深い結びつきを示すものとして、私の心に刻まれました。※こちらはご遺族の了解をえて、コミティア公式サイトで公開させてもらいましたので、ぜひご覧ください。
この時、商業単行本化されていない作品の同人誌出版をお勧めしたのがきっかけで、先生ご自身が同人誌を作ってコミティアやコミケットに参加されるようになりました。さらにそこから中断していた「風雲児たち」の出版社を移しての連載再開に結びついたのですから、コミティアも役に立ったことになります。
また、13年に私・中村が文化庁メディア芸術祭功労賞を受賞した時にも、最初に私を推してくださったのは審査員のみなもと先生だったと、後日別の審査員の方から聞きました。贈賞理由も先生自ら書いてくださいました。長年のファンとして、これほど嬉しかったことはありません。
40年に渡って描き続けられた代表作「風雲児たち」は、間違いなく日本のマンガ史に残る傑作ですが、未完となったのが何より惜しまれます。けれど誰よりも悔しい思いをしているのは、みなもと先生ご本人のはず。この気持ちは描き手の皆さんの方が、より身に染みて感じられることでしょう。どうか皆さんが目の前の作品を悔いなく描き上げられることを心から願います。
また、リイド社の担当編集の方が『トーチweb』のサイトで公開されたみなもと先生への弔辞 は、マンガ家と編集者の絆がどれほど深く、また先生がどんな影響を遺したのかが伝わる名文でした。ぜひ読んでもらえたらと思います。
最後になりましたが、本日は2407のサークル・個人の方が参加しています。今日のこの会場に〆切の呪縛から解き放たれたみなもと先生がふらりと遊びに来られることを信じて、コミティア137を開催します。どうぞゆっくりじっくりお楽しみください。
2021年9月20日 コミティア実行委員会代表 中村公彦