編集王に訊く39 『COMIC LO』編集長 コミックハウス編集局長 Wさん
2002年の創刊から今年7月に150号を迎える成年向けロリータ専門誌『COMIC LO』。14年間、オンリーワンの存在としてニッチなジャンルを開拓してきた原動力はどこにあるのだろうか。創刊号から編集長を務めるWさんに話を訊いた。(聞き手・吉田雄平/構成・会田洋、中村公彦)
コンビニ誌から『COMIC LO』へ
——Wさんがインタビューを受けるのは今回が初めてなんですね。
『COMIC LO』(以下、『LO』)に好意的なメディアばかりではないので、創刊当時から外部への露出には気をつけていました。『LO』にはコミティアに参加されていた作家さんが多いですし、成年誌にも関わらず出張編集部への参加を快諾していただいたりとお世話になってますからね。
——漫画編集者になられた経緯を教えてください。
もともと私はいろんなものを漫画で学んできた人間だったんです。アダルトコミックは学生時代に、一般誌で山本直樹さんを読んだところからでしょうか。だんだん深みにはまって、町田ひらくさんのようなロリ漫画まで大好きで読んでいました。それで大学4年の就職活動のときに漫画編集をやりたいと思ったんです。
大手出版社の入社試験も受けましたけど、まあ通るわけもなくて。漫画編集ができるアルバイトを探していて、最初に応募したのが編集プロダクションのコミックハウスでした。
——それが2000年のことですね。当時のコミックハウスはコンビニ向けの美少女漫画誌の編集業務請負がメインでしたが、その辺りから、子会社の茜新社で書店売りの成年誌を刊行する体制に徐々に移行されています。
そうなったのはたまたまなんですよ。コンビニ誌の仕事が減ったのは、版元さんが経費節約のために編集業務を自社に引き上げた雑誌が多かったからです。青いシールで雑誌に封をするようになってコストが上がったり、いろいろな規制の影響もありました。
そんな中で、コンビニ誌で掲載予定だった原稿が、キャラクターがちょっとロリっぽいという理由だけで、いきなり版元さんから「これはダメだ」って言われちゃったんです。何故かというと1999年に児童ポルノ法が成立した影響で、当時は業界全体で「ロリ漫画はもともとそんなに売れないし、リスクもあるからやめよう」という流れがあったんです。
それがあまりに理不尽だったので、いろいろと文句を言ってたら当時の社長から「そんなに言うなら作りなさい」と軽く言われまして、その言葉を真に受けて2002年に出したのが『LO』の1号目でした。だから1号目は出し逃げじゃないですけど、続くなんて思ってなかったくらいの感じで作ったんです。企画から初めての経験ばかりでしたけど、しっかりと売上の数字が出て、狙ったお客さんにお届けできたのは嬉しかったですね。「商売にならないから無くしていいよ」という流れの中で「ちゃんと作れば売れるんですよ」というのも出せましたし。『LO』が調子良くスタートできたことで、結果的に茜新社で雑誌を作ってみようかという流れも出来ました。
——「ちゃんと作る」とは具体的にどのようなことでしょうか。
やっぱりお客さんのことを考えるということですね。どうやったら買ってもらえるかを考えました。読者の立場で読んでいた時から、エロ漫画の編集者は作家さんに投げっぱなしで、お客さんのことを考えていないのかなって感じることが多かったんですね。ロリ漫画といっても女の子の年齢、キャラクターデザイン、お話で言えばラブラブ物、陵辱物だったりがあって、それぞれお客さんが好きだったり苦手だったりがあります。その中でこういう内容が今受けていて、描いたらダメなものはこれですよと漫画家さんにしっかり伝えることから始めました。
『LO』は女の子に暴力を振るう表現には厳しくて、陵辱物であっても男性器以外で女の子を傷つけないという決まりがあります。それは規制との関わりもありますが、まずお客さんが少ないからなんです。作家さんには申し訳ないですけど、雑誌としては存続が第一なので、そのためにはある程度は売れないといけません。どんなに形を変えても続けること。『LO』のコンセプトはそれに尽きますね。
YES! ロリータ NO! タッチ
——『LO』の表紙は、たかみちさんのイラストと宮村和生さんのデザインがとても洗練されていて、常に新鮮な印象があります。
たかみちさんに引き受けていただけたのは本当に運が良かったですね。もともと作家さんに教えて貰って、凄く良いなと思ってお願いしました。正直ダメ元だったんですけど、それまで雑誌の表紙イラストの仕事はなかったそうで、幸運にも興味を持っていただけたんです。
デザイナーの宮村さんは茜新社のBL誌の『EDGE』でお仕事をされていて、その編集長に紹介してもらいました。毎号たかみちさんのイラストを最大限に活かすデザインで素晴らしいですよね。『LO』のキャッチコピーの「YES!ロリータ NO!タッチ」というのは実は2号目の時に宮村さんが考えてくれたコピーなんです。最初のデザイン案にそれが入っていて、すごく良かったので今まで使わせていただいてます。私は昔の公共広告のCMが尖っていて大好きなんですけど、「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」に通じるセンスですよね。やはり性欲は恐ろしいものですから、『LO』が「絶対に実在のロリータに迷惑をかけてはいけない」と言い続ける意義はあると考えています。
——表紙に添えられるWさんのキャッチコピーも素晴らしくて、いつも注目してます。
ありがとうございます。私はコピーライターになりたいところもあったので、コピーを考えるのは大好きなんです。よくポエムだとか言われるんですけど、評価していただけるのはすごく嬉しいですね。ただ、イラスト・デザイン・コピー全て素晴らしいものが出来た!という時に限って売れないことが多いです(笑)。
ようするにエロと違う方向に表紙が向かっているので、それが売れないのは当たり前なんですよ。ウチのお客さんが偉いのはこれでもちゃんと買ってくれる方が多いことです。表紙が水着の時に売上が凄く増えたりして実感するんですが、テンプレで分かりやすくエロいものを作った方が売れるんです。ただ、売上を目的に最適化していくとワンパターンになって、見ている方も作ってる方も飽きちゃうんですよ。とは言え常に新しいことをするのは大変なことで、たかみちさんは毎回もの凄い数のボツを自主的に出されてます。今度の9月に出る『LO画集2-A』ではそのボツ原稿も収録予定なので興味ある方はぜひ見て欲しいですね。
——先ほどお話に出た、ちゃんと買ってくれるお客さんがいるというのも編集者としては心強いですよね。
実は『LO』で一番自慢したいのはお客さんなんですよ。「俺はこれが好きだ! これが欲しいんだ!」という、サポートする力が本当に強くて、すごく熱いんです。よくたとえ話で、「もし関ヶ原みたいな戦場に各雑誌ごとに布陣して戦ったら、3倍ぐらいの敵でも勝てるんじゃないか」と言ってます(笑)。世間一般に、エロの中でもロリータは厳しい見方をされる中で、お客さんには「自分はロリコンである」というプライドもあると思います。当たり前の話ですけど、漫画家さんと同じで、実際のお客さんはまともなんですよ。
だからどんなに熱くても盲信ではないんですね。『LO』はあくまでも嗜好品であって崇める対象ではない。常に満足してなくて、他に良いものがあったらに移る。『LO』の編集部が何か勘違いしたものを作ったら、たぶんお客さんは編集部に「バーカ!」と言っていましめてくれます(笑)。実際に1号目からお客さんは少しずつ入れ替わりながらも、常に同じ情熱を注いでくれている。その強さがあればどんな変化にも対応できると思います。
他ではできない話ができる編集部
——以前、出張編集部に参加されたときは、たいへん活況でしたが手応えはいかがでしょうか。
『LO』1誌でなくて、編集部の後輩が作ったいろんな雑誌のアピールの意味もありましたが、即戦力の作家さんが何人も来てくれて大成功でした。同人誌もピクシブもやってない方の持ち込みがあると「やった!」と思いますね。「こういう場だったのでようやく来れました」とか「ダメ元できました」という方もずいぶんいらっしゃいました。やっぱり出版社に直接持ち込みするのはハードルがありますから。以前からもっと気軽に持ち込みに来てほしかったので、出張編集部には出たかったんですよ。なにしろ原稿が足りてないですからね(笑)。ウチは常に新しい人を探しています。ロリ系はどうしてもジャンルが狭いので、ダメ元で巨乳好きな作家さんに描いて貰えないか提案することもあるくらいです。
——持ち込みの際の『LO』のアピールポイントを教えてください。
『LO』では女の子の年齢的には、2歳から14歳までOKです。アピールしたいところは「楽しい」ですね。特にロリ漫画はなかなか人に理解されないし、普通は自分の鬱々と内に秘めた真っ黒いものを出しにくい。『LO』にはそれを理解して、他では出来ないエッチの会話を延々とできる編集者がいます。全員ロリコンですから間違いありません。
——作家さんとの作品作りで、成年誌ならではの難しさというのはありますか。
完全にプロフェッショナルとして、たくさん売れるものを工業製品的に管理して作る方法もあると思います。でも私にそんな能力はないですし、無理やり原稿を取り立てる気もありません。ひたすら作家さんに頼るやり方をしてます。「来月にズレてもいいから面白いものを描いてください」とか「お客さんは少ないかもしれないけど、描きたいなら」みたいなやり方は本当は良くないですが、その方が作家さんも長く活躍できるんです。やっぱり作家さんが描きたくて描いたものって良いんですよね。普段は読まないような作品になっても雑誌に載ってると引き込まれる。それが雑誌の面白さだと思います。
打ち合わせは作家さんに合わせることが基本です。「ネタないですか?」と聞いてくれる作家さんであれば2時間でも3時間でもしゃべります。編集者としては作家さんがまだ技術が足りなかったり、迷ってる場合には「セオリーとしてはこっちだよ」と言ったり、2歳児を描きたい人に、ときどき「頑張って7歳児描かない?」みたいに説得するぐらい(笑)。大したことはやっていません。たとえば町田ひらくさんは揺るぎない作風を確立されてますから、私が話作りに立ち入る余地はありません。出てきたもので判断するしかないですね。
技術の模倣こそ独創への近道
——一般誌と比べても、成年誌の作画技術の向上には目を見張るものがありますがいかがでしょうか。
ポルノはまずビジュアルですから、絵が本当に重要なんです。絵柄が今のお客さんに合うかどうかが大きいです。今風でみんなに「これ可愛いよね」といってもらえるキャラの典型は間違いなく売れるので、一番の基本はまず売れてる作品の描き方、技術をちゃんと見ることです。
でも単純に他人の絵を真似てエロを描くだけではダメです。ノーイメージのキャラクターってセクシーでもなんでもないんですよ。自分にない技術を吸収しながら、自分自身の嗜好性を追求することでオリジナリティやエロさが生まれてくるんです。
ただ、成年誌に限らず今はデジタルで作画ノウハウの共有が進んで、技術を模倣するスピードが爆発的に進んでいます。同人誌でもピクシブでも、いきなりみんな上手いですよね。
——具体的に作画についてどんなポイントを重視されていますか。
女の子を可愛く見せる技術で一番基本的なところで言うと、まず眼と髪の毛です。ちょっと眼の描き込みを変えるだけでも、顔全体の印象がガラッと変わりますよね。結果的に他のパーツの配置や、輪郭線まで変わるので、眼は本当に大事です。髪の毛もとても大事で、線を柔らかく描くと女性的な柔らかさがグッと増して、全体的な印象が変わってきます。逆に硬く描くと男性的な印象が増しますよね。
——伸びる作家さんにはどんな特徴がありますか。
それまで自分がこだわって描いてきた絵でも、変わっていくのが楽しいと思える作家さんは伸びますね。これは年齢と関係ないんです。毎回ネームの前に、女の子の顔や体型が分かるようにキャラクター表を描いてもらうんですけど、40代のベテランで毎回変える人もいれば、デビュー前でも変えたくないという人がいます。そこはやっぱり柔軟な方が可能性があります。
最近だとやっぱりクジラックスさんですね。まずエロを描く技術がしっかりあって、そのうえで何かを盛り込む力もある。そうするとお客さんの反応が全然違いますよね。もともと彼はこういう漫画を描きたいというものを持っていたんです。やっぱり上手くなる人は周りの技術を吸収する学習能力がすごく高いです。
電子書籍の現在
——昨年から電子書籍で『LO』の配信が始まりましたが、手応えはいかがでしょうか。
おかげさまで好調です。数字的には雑誌の部数が少しずつ減っていたところをカバーしてくれてます。『LO』は長いこと雑誌単体で黒字で、そこが誇りだったんですけど、原稿料を上げたり、雑誌で使う古紙が値上がりしたりで、ちょっと赤字が出てきていたんです。
電子ではバックナンバーがロングテールで売れるのが大きいですね。雑誌の性格上、家に置けなかったというお客さんの需要もありました。この二つが大きいですが、紙は邪魔なので電子が良いというお客さんも増えていると思います。
——紙から少しずつ電子書籍への移行が進んでいるのでしょうか。
ここ2年ぐらいだとスマホとタブレットが普及したことが大きいです。2014年ぐらいにスマホがガラケーの電子書籍の売上を追い抜きました。漫画は読むけど本の形ではいらないというお客さんが想像以上に増えてますね。若い子よりむしろ購買力が高い30代以上の中で、本屋さんに行く習慣がない方が電子書籍を選んでいる印象があります。
本屋さんも減っていますし、取次さんまで倒産している状況も深刻ですね。電子書籍が無視できない売上になったことは確かですが、まだまだ本が中心ということもまた事実です。『LO』は漫画専門店さんから地方の小さな本屋さんまで、幅広く売っていただいてきたからこそ今があります。そこはお客さんが本屋さんに足を運んで貰えるようなものを作って盛り上げていきたいですね。
女の子の裸ほど強いものはない
——Wさんがコミックハウスの編集局長を務められるなか、『LO』の増刊から、『好色少年』、『Girls forM』、『コミック高』、『永遠娘』など、新雑誌が続々創刊されて勢いを感じます。
企画を出してくる後輩に対して「やりたきゃやれば」というだけですね。最初からダメ出しはしません。むしろ背中を押すだけ押して後は知らん顔で、売れれば編集者の実力なので、そこだけ評価する。そこは昔から気楽で良い社風だなと思ってますね。
たとえば『Girls forM』は男が踏まれたり蹴られたりして喜ぶという、M系嗜好の雑誌なんですけど、正直「売れるのこれ?」って思ったんですよ。それは私が『LO』を作った時に言われたりしてきたことだったんですけど。ただ、いざ出してみたら売れたんですね。びっくりしました。後輩たちも『LO』のやり方を見ていてくれたのか、ニッチの取り方をすごく上手く考えていて感心します。
ちょっと前に、社長から「編集長10年説って知ってる?」と言われたんですけど、『LO』が売れ筋に最適化したテンプレだけの作り方をしていたら、社長の言うとおり、10年で枯れて飽きられていたかもしれません。もともと私自身、単行本で年間ランキング1位を取れるような、流行に対してアンテナが鋭いタイプではないんです。それでもニッチを開拓しながら続けてこれたのは、作家さんの才能に頼ることができたからだと思います。
——出版業界が荒れる中、美少女漫画の強みというのはどの辺りにあると思われますか。
まず、性欲というのは間違いなく強い欲求なんです。女の子の裸ほど強いものはない。一般誌でもエロは強い需要があります。ですからなくなることはありません。女の子を可愛く描く技術の一点に限れば、美少女漫画誌はある程度ノウハウを確立していますから、一般誌の前にエロで腕を磨きたいという作家さんがいても全然いいんです。甘くはないですけど、エロの懐は広いですよ。
ただ、エロの需要も意外と変わるんですよ。今の若い子が考える「エロ」は私の感覚とちょっと違うと思います。生まれたときからネットで無修正の画像が見れる世代ですから、パラダイムシフトがあるのかもしれません。でも、嗜好が変わったならその変化を引き受ける若い編集者が出てくればいいんです。
『LO』に限って言えば、そこまで大きな広がりはなくていいんです。最強のお客さんですから、飽きられないように需要に応えていければいい。存続さえできればいいことはいっぱいありますから、それ以上のものは今のところいらないかなと。『LO』には私に代わる編集者がたくさんいますから、今もし私が死んでも問題はありません。何があっても『LO』は必ず存続しますよ。
(取材日:2016年5月26日)