サークルインタビュー FrontView

HeikalaHeikala

らくがき
A5/140P/2000円
職業…イラストレーター
趣味…植物を育てることと散歩
コミティア歴…2017年から
https://www.instagram.com/heikala
水彩で描かれた幻想的な風景や生き物たち。キャラクターの性格が滲む表情と仕草、生活の息遣いを感じさせる細部の描き込みに「本当にこんな子がいるのかも…」と親近感が湧いてくる。Heikalaさんの作品には、想像をかき立てられ物語が溢れ出し、じっと見続けていたくなる『魔法』のような魅力がある。
生まれはフィンランド北部のオウル。「4〜5歳頃にはお姫様や動物を描いていました。小学校に入るとアニメから日本のポップカルチャーに出会い、毎日『ポケモン』の絵に夢中でした」。現在のように、自然・少女・妖精などをモチーフに描き始めたのは美術の高校に通っていた頃から。トーベ・ヤンソンやルドルフ・コイヴの児童書に大きな影響を受けた。「伝統的な画材を使うのが好き」で、アナログ作画にこだわりがある。「性質上の制限が思いがけない効果を生んだり、画材に触れる手応えを得られることが創作過程をより楽しくします」。描き始めから終わりまで「一番大切にしていることは『作品の空気』」だと語り、色・画材・造形すべてで空気を創るようにしている。
高校の時から地元のコミックイベントのアーティストアレイに参加を始めた。「私の作品を『欲しい』と思ってくれる人がいることを知り、本当に嬉しかった」と振り返る。大学ではグラフィックデザインを専攻。在学中からイラストレーターとしての活動を始めた。「依頼を受けて描く仕事はあまりしていません。自主制作したイラスト・本・グッズを、主にWEBで販売しています。SNS投稿はキャリアを築くための大きな足掛かりになりました」。インクで描いた絵を1ヶ月間投稿するイベント『Inktober』への参加は、より多くのファンを生んだ。「誰かの絵の勉強になることを目指して作っている」という制作プロセスを紹介する動画も好評だ。Instagramでは131万人を超える世界中のフォロワーが、新しいポストを待っている。
15年から毎年日本へ旅行に来ており、17年にはTwitterで知ったコミティアに初参加。「私の作品はこの場所に合うかもしれない」と感じ、以降サークル出展を続け、22年にはヘルシンキから東京に移り住んだ。「何度も訪れるうちにここで暮らしたいと思うようになりました。離れることで、逆に母国への恋しい気持ちが増えたように感じます」。作品にも故郷に似た風景を描いてしまうそうだ。「フィンランドの春と日本の秋が好きです。美しい自然は私にインスピレーションを与えてくれます」
今年24年2月のコミティア147では告知イラストを担当し、5月には日本初個展を開催。12月にはフィンランドでの初個展を予定している。今後の目標を問うと「いつも一番良い自分でありたいです。新しいことを学び続けたい。いつまでも絵を描き続けるためにも健康でいたいですね」という素敵な答えが返ってきた。
ひた向きに絵と向き合い、丁寧に物語を込めるHeikalaさん。作品の息吹を感じ取り、あれやこれやと空想を膨らませてみて欲しい。そのワクワクするような楽しくて仕方のない体験は、あなたの世界を大きく広げてくれるはずだ。

TEXT / KOUTARO HASHIMOTO ティアズマガジン150に収録

東山忍東のこよみ

巡りゆく者たちの変奏曲
A5/316P/1000円
職業…会社員
趣味…ゲーム
コミティア歴…2002年から
悪魔や魔女を題材に、心温まる日常から手に汗握る命懸けの駆け引きまで、多彩な物語を淡々とした筆致で軽やかに描く東山忍さん。コミティア歴は合同サークル時代を含め23年。72回もの長期に渡って参加し続けてきたファンタジーの名手だ。そんな東山さんは今回のコミティア150をもって活動を休止するという──。
漫画家の両親の元に生まれた東山さん。その苦労を間近で見て育った。「小さい頃は『こんな努力をするのは自分には無理だから漫画家にはなれない。漫画家じゃなきゃ漫画を描いちゃいけない』と考えていました」
最初の転機は中学の時。友達に誘われて訪れた二次創作のイベントで、趣味として漫画を描く人の存在を初めて知る。「描くのを楽しんで、本にしていいんだ」。そこから漫画制作の部活に入った東山さんは、部活の仲間と共に合同サークルを立ち上げコミティア59に初参加。他のメンバーが漫画をやめてからも、個人サークルとして活動を継続して来た。
作品で多く描かれるテーマは魔女狩り、戦争、死…と重厚なものが多い。だが、キーとなる悪魔たちは必ずしも『悪』として描かれず、展開もほのぼのしたものが基本で、あっさりと読み易い。その絶妙なバランス感覚は東山さんならではだろう。「自分自身、怖い場面は好きじゃないんです」
悪魔を出すようになったきっかけは、15年ほど前。作品の執筆にあたり、悪魔関連の資料を読み漁って行った所、「悪魔それぞれに必ず何かしら特徴があるのが面白くて、『この子を描きたいな』『このエピソードを本にしたいな』と話が膨らんでいきました」。結果、最新刊の『巡りゆく者たちの変奏曲』に至るまで、計44冊にソロモン72柱の悪魔の内56柱が登場。世話焼きな保護者気質から人間1人のみに執着する純粋な性格まで、キャラごとの特徴を捉えたデザインも見事だ。「コミティアがある度に、その時描きたいものがあったら形にしたい、新刊を持って参加したい。それが積み重なってここまで来ました」
ここまで漫画を描き続けた一番の原動力は、学生の頃貰った一冊のノートだと言う。分厚い以外は何の変哲もない、真っ白なノートを見て「これに全部漫画を描いたら、分厚い漫画を読めるぞ」と思ったそうだ。その時生まれた「自分が好きなものを読みたいなら自分で描くしかない」という悟りが、今に至るまでの創作のモチベーションとなった。
今回休止を決断したきっかけは、最新刊である総集編の発行だ。編集しながら、人生の指針としていた「自分が読みたいものを満足するまで描き切った」ことに気付いた。今まで創作活動を中心に生きてきたが、他にやりたいこともある。念願を果たした今、無理に創作をしても面白いものは出てこないという感覚が、活動に区切りを付ける決め手となった。一方で東山さんの「読みたい=描きたいもの」がこれで無くなることもないはずだ。長らくの活動に大いに敬意を表しつつ、いつか来るだろう復活の日を楽しみに待ちたい。

TEXT / RYO SHIOTA ティアズマガジン150に収録

小野未練たおやかハンバーグ

ちゃいるどふっず・えんどれす
A5/40P/800円
職業…漫画家(たぶん)
趣味…漫画、散歩、草野球
コミティア歴…コミティア126から
https://x.com/tikuwa_surimi
愛する人と共に歩めない長命種ゆえの孤独から、学校のクラスや家庭での居場所のなさまで、世間に対して疎外感を感じる人々の姿を描く小野未練さん。どこかビターな情感を漂わせつつ、キャラクター達に人間臭さと可笑しみを覚えてしまう作風が魅力だ。「『普通』に馴染めない人たちに眼差しを向けたいんです」と、暖かい目線を持って作品を描き続けている。
子どもの頃から地元名古屋の古本屋で様々なマンガを読み漁った。その時様々なジャンルの作品に夢中になったことが原体験だと語る。「市川春子先生の短編集『虫と歌』や『25時のバカンス』では、人から外れた存在を描くテーマ性に感銘を受けました。また、重い事柄も鮮やかにギャグで落とす、という手法はこうの史代先生の作品から学びました。いずれも自分の創作の核と言えます」
マンガに関わる仕事に繋げたいと大学でデザイン系の学部を専攻したが、授業にはあまり興味が持てなかった。「小さい頃から好きではないことに取り組めない性格で、授業もサボり気味でした。就活や社会人生活から逃げる先を探していた時期だったと思います」
焦燥の中、転機となったのがサークル「おおきめログハウス」の『ブルーモメントの娘たち』に大きな衝撃を受けたこと。「可愛らしい絵柄と不穏さに満ちた空気」に商業作品にはない魅力を感じ、本格的にマンガ執筆に取り組みだした。コミティア126に合同サークルメンバーとして、19年のコミティア129から個人サークル・たおやかハンバーグとして参加。ちょうどコロナ禍に突入する時期だったが、「授業がリモートになってラッキーでした(笑)」と、かえって追い風になった。
コミティアでは旺盛な創作活動を展開し、ほぼ毎回新刊を発表。永遠の命を持つ喫茶店のマスターと彼女に惹かれる女子大生を描く『呪いの解けた彼女は』でモーニング月例賞・努力賞を、自殺未遂の女の子をすんでの所で助けたことから始まる『花束の代わりに』ではちばてつや賞・一般部門奨励賞を受賞し、青年マンガジャンルで一定の評価を得た。
だがコミティア143では一転、互いの孤独を埋め合うように汗まみれの行為を貪る男女を描いたアダルト作品『プラスチック・レイン』でファンを驚かせた。「漫画家として成長するために、自分が描きたいことを大事にしつつ、画力向上に挑戦したかったんです。自分が描いてきた作品と成年マンガはどちらも読切が中心なので、勝負しやすいという思いもありました」。その狙いは当たり、『COMICゼロス』『コミック快楽天』(ワニマガジン社)といった商業での活躍にも繋がっている。
画力やストーリー性の洗練が目覚ましい一方で「コミティアはマンガ好きがいい感じの距離感で参加しているのが良い。作品にせよ描写にせよ、自由に出来る実験場と思ってます(笑)」と同人ならではのアプローチも忘れない。人間を見つめ続け、磨かれ花開きつつある実力。それがこの先どれほど多くの人々を魅了するのか。一読者として楽しみだ。

TEXT / KOSUKE YAMASHITA ティアズマガジン150に収録

すみれちゃん相互確証破壊

イ・シニグメニ
A5/128P/1000円
職業…漫画家
趣味…植物を育てること
コミティア歴…コミティア139から
https://x.com/lalah_7th
「生まれて初めて描いたマンガが、まさか評価されるとは思っていませんでした」。サークル初参加のコミティア139で発表した『With you, to Atlantis.』は、すみれちゃんさんのその言葉が信じられないほどの重厚な作品だ。郵便飛行をテーマに、謎の人魚との交流を描いた100P超えの本作をはじめ、幻想的ながら読みやすい作品の数々には卓越したセンスが溢れている。「自分がこう表現したい、という想いを第一に、理詰めよりも感性を大事にして描いています」
子供の頃は、宮崎駿によるマンガ版の『風の谷のナウシカ』を「文字通り表紙が擦り切れて無くなるまで読み返していた」という。特に巨神兵や大型船の造形、セリフで語られない描写の精緻さに惹かれた。「話は難しくて理解できなかったんですけど、絵自体が語るものを感じていたんだと思います」
だが、自分で創作を始めるのには時間を要した。「就職して少し経ってから、細々と絵を描き始めてSNSに上げていたくらいです」。そんな中、コミティア137での出会いが転機となる。「サンプルを読んだ『明晰夢』という作品がすごく綺麗な作品で自分に刺さったので、買いに行きました。その時に作者のつのさめさんと仲良くなったのが、自分もコミティアに出たいと思ったきっかけですね」
当初はTwitterに投稿したものをまとめたイラスト本を出すつもりだった。しかし「個人的に『背表紙が分厚い本』を作りたかったんですが、過去のイラストだけだと足りなかったんです」と、描いたことのないマンガへの挑戦を決意。「昔から好きだったプロペラ機なら描けると思って」と、熱意のままにプロットを切った。「WEBで『マンガ 描き方』とかで検索しながら悪戦苦闘して、描き上げるのに2カ月かかりました」。そうして完成した『With you, to Atlantis.』は、前編20部、後編50部がすぐに完売。ティアズマガジンのP&Rにも取り上げられる。「何しろ初めてのマンガだったので、コミティアさんからP&R紹介のお知らせが来た時は『絶対迷惑メールだ』と思ったくらいです(笑)」
その後も22年に『ザ・リビングデッド・イズ・ドミネーテッド・バイ・アサンプション』、23年に『地底5億年のエルピス』と中編を相次いで発表。今年からはWEBメディア「マトグロッソ」(イースト・プレス)にて、『サン=テグジュペリは夢をみる』の連載を開始した。「自分が描きたいものを描けて、さらに読者にも楽しんでもらえるマンガを生み出したいんです。その点、編集者さんの視点もお借りして作品を作るのは楽しいですね」と、幸先の良い商業デビューとなっているようだ。
「自分の興味のある歴史や飛行機をテーマにした作品を極めていきたいです」と話すすみれちゃんさんだが、マンガについてはまだまだ勉強中だという。「今描いているマンガが面白いか、そもそもマンガという形式になっているのかということは、今でも時々思う時があります」。飄々と語るその才がどこまで到達するのか、今後も目が離せない。

TEXT / HIROYUKI KUROSU ティアズマガジン150に収録